「西澄花と申します」

『澄花ちゃんね。大学生? 成人してるの?』
なんでそんなことを聞くのだろうと一瞬思ったけれど、話の流れで答えていた。

はい」
『そうか。じゃあ土日とか時間ある?』
「土曜は午前中だけ講義が入ってます」

そんなこんなで、土曜日の午後に彼と待ち合わせることとなった。

メンバー募集の楽団の名前を聞き忘れた、と思ったのは短い電話を切ってからだった。



「眺めのいいところですね」

目の前には大きな川がたゆたっている。私は洸さんに連れられて、何故かこの場所に来ていた。

土曜日の昼下がりの河川敷。水がさわさわと流れる。遠くでトンビが鳴いている。
時折電車が高架橋をかたことと音を立てて走っていく。

穴場なんだ、ここ」

ワックスで固められた洸さんの髪の毛。立てられた髪は、風が吹いてもなびかない。

楽器を持ってくるように言われたけど、でも、なんでここへ?
そういう疑念が浮かんだ瞬間、洸さんは私の頬に手を当てた。

「髪の毛食ってる」