その後すぐ、私と洸さんは他人のふり。適度な距離を持って、私の寮まで歩く。
耳をそばだてて、誰も何の音もしないことを確かめると、私は玄関の鍵を開ける。
そしてドアを開くと、滑り込むように洸さんも入ってくる。

はー、と、ドア内でお互い息をつき、笑い合い、そして抱擁。

住まいが1階でよかった。4階の最上階の部屋に住んでいたら、エレベーターやら階段やらで誰に出くわすか解らない。
ただ、1階であるその分、洸さんがいる時は外から見えるからカーテンも開けられないし、そういう時の声も大きく出せない。

洸さんと会うには、毎回スリルがあった。

単調な毎日に刺激が欲しいからと、お金はあるのに万引きをしてしまう主婦の気持ちがよく解る。

洸さんには奥さんがいるから、タブーを犯しているから、燃え上がるのだ。

テレビのニュースを見ながら、単調に私の作ったご飯を食べてくれている洸さんの背中を見る。
低いテーブルに、座布団を敷いただけの簡素な食卓。
彼は食事の時はいつも寡黙になる。ただ料理をぱくぱくと口に運ぶ作業を繰り返す。

そんな姿でさえ、愛しかった。
ふたりでいる時は、私の洸さん。私だけの洸さん。

「お茶、飲む?」
「ああ」