そんな時に、出会った。出会って、しまった。

テラスとは別の、スタッフの出入口へと楽器を抱えたまま移動しようとしたところ、目の前に立ちはだかるスーツ姿の男性がいた。

「フリューゲルホルンって云っても、ホルンじゃないよな。むしろトランペット」

背の高い、前髪を立てた男は、私の抱える楽器を指さしてそう言った。
私はスタッフ。この招待客はあくまでもゲスト。無碍にすることはできない。
なんだこのひと、いきなり声かけてきて。そう思ったけれど、態度に出すこともできない。

「そうですね。形状はペットですよね」

トランペットよりは、いくらか大きく、丸みを帯びている。使うマウスピースのカップの深さも違う。

「ホルンなら音出るんだけどな」

にこにこと笑みを絶やさない、その男。整った顔立ちなのだけれど、瞳から笑みが
零れているようで、私はそのひとに好感を持った。

「やってらしたんですか?」
「うん。学生の時にね」
「そうですか」

すると彼は、ポッケから名刺を取り出し、すっと私に寄越した。