実家に旅行バッグはあるものの、わざわざ送ってもらうのはあれこれ面倒だったし。
幸い、バイトをしていたおかげで、お金には余裕があった。

「傷心旅行? 私もついていくよー」

大学の友人の朝香には何でも相談していた。だから彼氏と別れたことも知っている。
ただ、洸さんのことは誰にも何も言っていない。色々言われそうだし、秘密の恋というのが燃えたりするものだ。

「ううん。独りで行きたいの」
「街なかカップル多いから買い物独りで行きたくないーって云ってたのは誰?」

ポニーテールを揺らして、私の顔をじーっと覗き込んでくる朝香。

「それとこれとは別」
「キャラメルマキアートだな」
「解った。奢るよ」

いえい、と指を鳴らす彼女を横目に、私は浮足立っていた。

本当は旅行は独りで行くんじゃない。ふたりで。
洸さんと一緒に行く予定だった。誰にも内緒のランデブー。

いつもラブホとか澄花ちゃんの家だけだからさ。
だからたまには遠出して、うまいもん食べて温泉にでも入ろう。
お揃いの浴衣着て夜の温泉街歩いたりさ。朝市行ったりさ。