その瞳のまま、口許に微かな笑みをたたえて彼は言った。
「ここ住宅街もないし、人通りも少ないし、フリューゲルだったら破裂音もしないし。聞かせてよ、俺だけに」
楽団というのは口実だ。このひとはきっと、最初からそういう感じで私を見ていたと確信した。
それはそれでいいかな。私の彼氏も浮気したようなもんだし。
日光でより輝きを増している、洸さんの左手の指輪を見て、それこそ黒い気持ちで私はほくそ笑んだ。
☆
「澄花、どっか旅行行くの?」
日曜日の街の雑踏で、私は大きな荷物を抱えていた。
洋服の入った紙袋、化粧品を買った袋、そして小ぶりのボストンバッグだ。
紙袋が人の往来に当たり、がさっと音を立てて大きく揺れる。
それを見て、ポーチを肩から斜め掛けにしていて、手すきの隣を歩く朝香がさっと手を出してくれる。
「持つよ。そんな大荷物」
「ありがとう」
私はとりあえず洋服のバックだけ彼女に預ける。
「旅行……ちょっとね」
旅行カバンは筒型の黒地に白のブランドのロゴが入ったものを買った。
「ここ住宅街もないし、人通りも少ないし、フリューゲルだったら破裂音もしないし。聞かせてよ、俺だけに」
楽団というのは口実だ。このひとはきっと、最初からそういう感じで私を見ていたと確信した。
それはそれでいいかな。私の彼氏も浮気したようなもんだし。
日光でより輝きを増している、洸さんの左手の指輪を見て、それこそ黒い気持ちで私はほくそ笑んだ。
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「澄花、どっか旅行行くの?」
日曜日の街の雑踏で、私は大きな荷物を抱えていた。
洋服の入った紙袋、化粧品を買った袋、そして小ぶりのボストンバッグだ。
紙袋が人の往来に当たり、がさっと音を立てて大きく揺れる。
それを見て、ポーチを肩から斜め掛けにしていて、手すきの隣を歩く朝香がさっと手を出してくれる。
「持つよ。そんな大荷物」
「ありがとう」
私はとりあえず洋服のバックだけ彼女に預ける。
「旅行……ちょっとね」
旅行カバンは筒型の黒地に白のブランドのロゴが入ったものを買った。