「なんだよ。いたなら入ってくればいいだろ?」
デリカシーのない先輩の言葉に、少し眉をひそめた。
「あの……盗み聞きするつもりはなかったんですけど、たまたまお取込み中だったみたいなので、いつ入ればいいのかわからなかったんですよ。それよりも先輩はさっきの人を追いかけなくてもいいですか?」
「なんで俺が追いかけなくちゃいけないわけ?」
「だって、さっきの人泣いてましたよ?」
「俺が泣かしたとでも言いたいわけ?」
「実質、そうじゃないですか」
――パンッ!
感情任せに殴りつけた机の音に顔を上げると、先輩は鬼の形相をしていた。
「あぁ、そうかよ。お前の気持ちはよくわかった。呼び出して悪かったな」
黒岩先輩はあたしを教室に残して出て行こうとした。
あたし、なにやってんだろう。
先輩によく怒鳴られることはあっても、あそこまで先輩を本気で怒らせたことなんてなかったのに。
あたしは先輩にさっきの人と上手くいってほしいって思ったの?