桜とともに屋上に風が吹き抜け、制服についた一枚の花びらを親指と人差し指でつまんだ。
「虹空くん、今、どこに居るのかな?」
誰にも聞こえない小さな声で呟く。
すると、返事をするかのように今さっきよりも大きな風がつまんだ花びらと共に再び吹き抜けた。
今でも、あの日々のことをずっと思い出す。
アスファルトの道を濡らす雨の音、凍える身体、瞳から流れ落ちる涙。
何もかもに疲れていた私の頭上に傘をさして君が雨から守ってくれたあの日。
心から笑えていなかった私の手を引いて海へ連れて行ってくれたあの日。
君は、何気ない一言で私を救ってくれた。
君の過去をすべて知ったあの日。
私は君を助けたいと思った。あの世界に来た意味を知った。
二人であの世界から出ようと決断したあの日。
君も私も泣いてたね。出たら君との思い出を忘れてしまうから。でも、たとえ忘れたとしてもどこかで君と会えるような気がしたんだ。
すべての真実を知った、あの日。
君も私も、また、どこかで会えると泣きながら笑っていたね。
君との日々を私は今でもはっきりと覚えている。
だから、またどこかで会えたら、私は君を見つけられる気がするんだ。