隣人さん、お世話になります。

昼、電話が鳴って出ると大家さんだった。
もうすぐ部屋の工事が終わるっていう本当なら嬉しい報告のはずが複雑な気持ち。
モヤモヤしたまま、仕事を終えてコンビニに寄ってみたけど片桐さんは今日は居なかった。
ふと思う、今日は家に帰れば片桐さんに会えるけれど、家に帰ってしまったら今回みたいに会えないって時が増えていくんだろうかって。


「……ただいま帰りました」
「あ、間宮さん。おかえり。そうそう、部屋工事終わったってね」
「あ………はい」
「ん? なんか元気ないね」

出迎えてくれた片桐さんは既に知っていて、嬉しそうに話してくれる。
嬉しいよね、居候が居なくなるんだから。
自分で言っておいて悲しくなって、ぎゅっと服を掴んだ。
ああ、泣きそうだ。


「間宮さん、そこじゃあれだしおいで」


きっと泣きそうになってる事バレてるのに、鬱陶しいはずなのにこんなメソメソして。なのに片桐さんは、私の手をそっと取って部屋に招き入れてくれる。
それはまるで初めて私をこの部屋へ入れてくれた時のように。
あの時と明らかに違うのは、私のこの恋心だ。

「どうして泣いてんの。嫌なことでもあった?」

首を振りかけて止めた。素直にうんって頷いてみれば、ポンポンと頭を撫でられてキュンっと胸が苦しくなった。


「片桐さんにとっては、私が家に戻れたら良いことでしかないのにっ! なのに私、すごく…寂しいですっ」

言葉を口から出してしまえば、涙も目からボロボロ溢れて、ぐしぐしと手の甲で擦っていると手首をグイッと引かれた。
え、と驚き見上げると片桐さんが真剣な顔をして私を一瞬見ていて、でも直ぐにふにゃっと眉を下げて微笑む。


「俺も寂しいって思った。間宮さんは家にやっと帰れて嬉しいはずなのに、ただの隣人でしかない俺が寂しいっておかしいんじゃないかって。でも色々考えて答えが分かった」


長くて白い綺麗な指先が私の頬に触れ、目尻に溜まった涙を拭う。

ドキドキ、ドキドキ。


「好きだよ」

言葉にならなかった。
今朝好きだって自覚して咄嗟に言ってしまった時は、絶対にこの想いは一方通行で叶うわけがないと思っていたのに。


「っ、うぁっ……」
「泣かないの。まあ、泣いてる顔も可愛いけど、やっぱり俺は間宮さんの笑ってる顔が一番好きかな」
「ふぇぇっ、わ、私も片桐さんのっ、そうやってふにゃってしてる笑顔好きですぅぅ」
「あはは、もー泣き虫だな。でもうん、大丈夫。どんなに泣いても俺が拭ってあげられるから。”だから君が笑ってる隣に俺が居ても良い権利をください”」

そんな事を言われたらもう涙は止まることを知らないかのように流れ続け、今言ってすぐに片桐さんは涙をニコニコしながら拭ってくれた。

好き、好き、大好きが溢れてくる。
どんどん、どんどん溢れて止まらない。


「同居は一旦解消だけど、いつでも行き来できるから」
「うん」
「夏になったら縁側で西瓜食べながら花火をしよう」
「うん」
「秋には七輪を出して秋刀魚焼いてもいいね」
「ふふ、多分近所の人に怒られそうです」
「だったらお裾分け分も焼かないと駄目か」
「そういう問題じゃないような。あ、冬になったら炬燵出すんで一緒に温もりましょうね」
「うん、ミカンは絶対」
「うん」
「……大丈夫。寂しくなんてならないよ。すぐ隣だから」
「うんっ」


ぎゅううううと抱き締められて、自然とお互い見つめ合えばどちらかともなく目を瞑り唇を寄せあった。
ちゅ、と軽く触れただけのキスが、ドクドクと血流を良くさせる。


「間宮さん、これからは希子ちゃんって呼んでいい?」
「うん、あのじゃあ私も良平さん」


まだ二人の恋は始まったばかり。





それから数ヶ月後あの日言った通り私達は夏の夜、お風呂上がりに互いの部屋の縁側で私の切った西瓜を食べながら、良平さんの買ってきてくれた手持ち花火を仲良くやっていた。



「希子ちゃん、種ついてる」
「え、ほんと?」
「ん、ここ」
「っ、ちょっ、ほんとは種ついてなかったでしょ!?」


突然頬にキスをされ熱いそこを手で押さえれば、ニコニコと笑ってる良平さんの横顔が見れて綺麗だなって。


「うん、可愛いからつい」
「うっ、良平さんこそかっこいい」
「っ、て、照れるね」
「やめましょう」
「やだやめない。可愛いもん」
「んもー!!」
「あはは!!」


今年の夏も楽しくなりそうだ。






END


お読みくださり、ありがとうございました。
エムと申します。

かなーり昔にここでお話をちょこちょこ書かせて頂いてましたが、忙しくなったり気持ちが離れたりして書くという生活から長く離れていました。

最近はゆとりができて、また書くことの楽しさに最近触れまして、また少しずつ書いていけたらと思ってます!

今回は”同居”をテーマに書いてみて、果たしてこれは同居でいいのか?って悩みますが(居候と同居の違いが……)

でもまあ、楽しかったので良しです!


オンボロアパートで隣人さんがイケメンなんて、ふへへ。
それだけできっと毎日目の保養ができて楽しいです。
片桐さんは、その上優しいときてるので、そりゃあ希子も落ちるなと。


そんな二人を楽しんで頂けてたら幸いです。



2022.6.12

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