この指輪を受け取れば、私は良平さんと婚約を交わすことになる。

 けれど、彼に対して罪悪感をずっと抱えたまま婚約をすることに躊躇いを覚え、安易に答えることが出来なくて、口ごもってしまう。

 そんな嶺奈の思考を見透かしたように、立花は言葉を続けた。

「嶺奈が俺に対して、何か引け目を感じているなら、それは違うよ。君のせいじゃない」

「どうして。だって、私は現に良平さんを裏切っ──」

「それでも構わないって言ったはずだけど? 嶺奈が阿久津のことを諦め切れないのは、薄々気付いていたし。けど、俺も諦めるつもりはさらさら無かったから」

 良平さんは私の気持ちに気付いていて、あえて知らないふりをしていたのかと思うと、居たたまれない気持ちになってしまう。

 私の愚行を止めなかったのは、彼の優しさなのか。

「……私は良平さんに想ってもらえるほど、良い人じゃない。それに、もし、私がまた同じことを繰り返したら?」