「くそ! 親父に噛みついてる暇はねえぞ、シルヴァン!」
「言われなくても僕も同じ気持ちだよ。さっさと片付けて帰ろう」
怒りながら駆けていく背中を眺めていたドミニコラは、口角を上げてつぶやいた。
「懐かしいですね。主のときは、命令を無視して崖を軽々と登った後、帰ろうとしたところを二度谷に落とされていましたっけ」
「忘れろ」
過去を掘り起こされて微かに眉を寄せたラシルヴィストは、息子達を見つめて続けた。
「心配はいらん。……とんだ余興だ」
そのとき、ふたりの背後の茂みが動いた。
葉の揺れる音を敏感に聞き取ったラシルヴィストが振り向くと、はっとした影が身を隠す。
長身の彼からは、見慣れたピンク色の髪が見えていて、つい気が緩んだ。
「いつからそこにいた。エスター」
あっさり正体がバレて素直に顔を出した彼女は、歩み寄る夫に苦笑する。
「とても気になったので、城を出たときからこっそり」
「何も聞いていないな?」
「ええ。しっかり反抗期だったラヴィス様の話なんて、なにも……あぅっ、いひゃいれす」
頬を軽くつままれて笑みがこぼれる妻に、ラシルヴィストは小さく息を吐いた。