「……やっぱりダメか。ドミニコラさんだけなら引き上げてくれたな」

「血も涙もない親父が騙されるわけないだろ! 俺は谷に蹴り飛ばされたんだぞ!」


 弟のシルヴァンは聡明で温厚なだけでなく、案外したたかで計算高い一面もあった。

 この双子、冷酷な獣の息子らしく、ちょっとやそっとじゃ折れないたくましい青年に成長したのである。


「お前たち、よく聞け。その谷を道なりに進むとエピナントを流れる川が見えてくる。川を越えると西の炭鉱町に着くだろう。身分を隠して町のトラブルを解決して来るんだ」


 王族の試験が予想よりも労力が必要だと気づいた双子は、ふたり揃って顔をしかめた。


「どうして身分を隠す必要があるんだよ! 視察と変わらないじゃねえか」

「王子だとバレると町の本質を隠される。王族の儀式前は、王都の民以外、お前たちの顔を直接知る奴らはいない。暗躍して来い」


 双子は、儀式という名の厄介な仕事を任されたのだと理解した。それに、王族の儀式がある一週間後の誕生日までに解決して城に戻る必要がある。