突然死にかけた双子が絶句して目を合わせていると、頭上から父とドミニコラの声が響く。
「これはアレですか。子どもの成長のためにあえて谷に突き落とすという……」
「ああ。十八を迎える年に行われる王族の試練だ」
「だからって物理的に突き落とすやつがあるか、このクソ親父ーーっ!」
ヴォレンスが、王子の肩書きも忘れて怒鳴り声を上げた。
普段は品行方正な王族を演じる義務を守って堅苦しい公務をこなしているが、本来のヴォレンスはやんちゃな青年だ。
思春期真っ盛りな彼は父と衝突することも増え、その度に涼しげにかわされている。
「……ひどい。試練だからって、谷に突き飛ばすなんて」
キャンキャン吠えるヴォレンスの隣で、弟のシルヴァンは小さくすすり泣く。
様子を見ていたドミニコラが慌ててラシルヴィストへ声をかけた。
「ああ、やはり手荒なのではありませんか? シルヴァン様は泣いておられるではありませんか」
「問題ない。あれは泣き真似だ」
ピシャリと父の断言が飛び、シルヴァンの涙も止まる。