「あれは、ボテン草だね」

「なんだそれ? 聞いたことないぞ」

「母さんの使っている植物図鑑に載ってた、希少な薬草だよ。手に入れるのが難しいんだ。ここに自生していたのを初めて知った」


 興味を持った双子が父とドミニコラを追い抜いて草原に近づくと、足元の地面がガラリと崩れた。とっさに飛び退いて視線を向けた先には、真っ暗な谷がある。

 獣人の耳で崩れた石が地下に落ちる音を微かに拾うが、結構な深さのある谷らしい。


「お前たちには、ここで王族の試練を受けてもらう」


 ラシルヴィストは息子たちに向けて宣言した。


「もしかして、あの草を取って来る試練ですか?」


 シルヴァンが振り返って尋ねようとした次の瞬間、父のたくましい腕が背中を押した。隣の兄は足蹴にされて体が傾いている。

 「きゃいん」と小さく鳴いた双子は、真っ暗な谷へと真っ逆さまに落ちていく。

 咄嗟に耳と尻尾を出して獣人の力を解放し、墜落する前に谷底へうまく着地した。

 人間ならばひとたまりもないだろう。