彼はふ~っと大きなため息を付いた。

相当疲れているっぽい。

これだから、恋は恐ろしい。

体力も気力も奪っていく。

用心していないと、飲み込まれる。

そして、海の底のような深いところに突き落とされて帰って来られなくなる。

つまり...自分を見失う、自分が自分でなくなるってこと。

あぁ、寒気がする。


「雨谷はさ」


夜空に瞬く無数の星を見つめながら、弓木くんは口を動かす。


「恋ってなんだと思う?」

「そもそも恋をしたことがないあたしに聞く?」

「...」


申し訳なく思ったのか黙ってしまった彼の代わりにあたしが話すしかない。

駅まで近付いて来て街灯が多くなる。

彼の表情も良く見える。

...答えなくちゃな。

あたしにそう思わせるほど、彼の顔には深刻な色が滲んでいる。

あたしは仕方なく思いつくがままに口にする。