それはともかく...

あたしは弓木澪夜のことが気になった。

せっかく幼なじみが帰ってきたというのに、浮かない顔をしている。

つい数時間前まで日葵の側を離れず、不器用ながらも温かく優しく、その熱を伝えていたように思えたのに。

今ではすっかり肩を落として先を行く4人の背中を追うこともせず、あたしの半歩後ろをまるで亡霊のように歩いている。

話し出すまで黙っていようかと思ったが、その前に声を上げてしまった。


「あっ」


プツンと鼻緒が切れた。

湧水くんの登場といい、鼻緒ハプニングといい、何だか良からぬ予感しかしない。

生ぬるくベタついた風が肌を撫でる。

不穏な空気が増幅しているように思える。

浄化しようにも出来ない。

ひとまず鼻緒を直して駅まで歩くしかない。

あたしが地面にしゃがみこもうとすると、視界の端からあたしよりふた回りほど大きな下駄が現れた。

そして、ゆっくりとあたしの視界にその整った顔を映す。

色んな意味で憔悴仕切った顔をしている。

そんな顔を見ていたら、あたしの口から自然に言葉が漏れた。


「大丈夫?」


あたしのその言葉に弓木くんはふっと笑った。


「何?」

「大丈夫ってこっちのセリフ」

「そう?」

「そうだ」


彼があたしの前に手のひらを出してくる。

ならば、甘えよう。

あたしは下駄を脱ぎ、彼に渡した。


「ぶっつりと切れたんだな」

「あたしには君たちの赤い糸はまだ切れてないように見えるよ」

「...んだよ。またその話?」

「ん。それしか話題がない」

「いや、もっとあるだろ?捜しに行ってどうだった?とか」

「自分で墓穴を掘る人、今初めて見た」

「ったく、なんで雨谷はそんな反応しか出来ないんだよ」

「言ったでしょ。あたしはあたし、だから」

「はいはい。分かりました」