鶴乃さんは戸塚くんの押しに負け、大判焼きを手に取るとパクりと一口口に入れた。

強張っていた鶴乃さんの頬がみるみる解きほぐされて行く。

口の中に優しい甘さが広がり、反射的に鶴乃さんの気持ちが形になって現れる。

浴衣に模様とは違うシミが出来、慌てて戸塚くんが、屋台のおっちゃん達からもらってきたおしぼりを差し出す。


「ご、ごめん。おれ無神経なことしちゃったから...。あぁ、ごめん。ど、どうすれば...」

「ううん。違うよ...」


鶴乃さんが涙を浮かべながら大判焼きをもう一口頬張る。

そして...笑顔を浮かべた。


「ありがと。これ、美味しいよ」

「そ、そう？」

「なんか、元気出てきた。本当にありがと、朝登くん」

「ど、どどどーいたしやしてー」


カミカミの戸塚くんに思わず吹き出す鶴乃さん。

鶴乃さんに笑顔が戻って本当に良かった...。

やっぱり美人には笑顔が似合う。

きっと戸塚くんにとっては鶴乃さんが花火みたいな存在なんだろうな。

鮮やかにぱあっと咲いて

心を明るく照らしてくれる。

そんな特別な存在...。


なんだろう。

あたしまで嬉しい。

周りの人が笑ってくれる。

ただそれだけのことなのに、

こんなにも嬉しくて

こんなにも尊いものだったんだ。