あたしが2人への想いを吐露すれば何かが変わるなんて、そんな大それたことは思わない。

あたしの言葉にそんな重みも深みも影響力もないことくらい自分が1番良く知っている。

けれど、今はまだ黙っておこうと思った。

彼らへの想いとあたしの過去は背中合わせなのだから。

1度放ってしまえば、数珠繋ぎのように色々なことが繋がって現れて収拾がつかなくなってしまうから。

今はまだ...

まだ、なんだ。


あたしは3歩前を歩く2人を見つめた。

どうか...

どうか、そのままでいて。


2人の背中に願掛けしていると、次の目的地に到着した。

いよいよ戸塚くんおまちかねの射的タイムだ。

戸塚くんは意気揚々と100円玉を出し、5回のチャンスを得た。

景品として並べられているのは、小さな球で打ち落とせそうな小さなぬいぐるみやおもちゃ、駄菓子だ。


「つるのんは何か欲しいのある?」

「わ、私?」


本当は朝登くんの気持ちに気づいているはずなのに、鶴乃さんは驚いてみせる。

この絶妙な表情や仕草が朝登くんをさらに本気にさせる。


「何でも言って。おれが全部取ってみせるから」

「なら...あの熊のキーホルダーと最前列のポッキーをお願い」

「了解っ!どーんとお任せあれっ!」


戸塚くんは拳で胸をどんっと強く叩くと、まずは銃口を熊のキーホルダーに向けた。

そして、パンッと勢い良く発射すると、玉はトンっと的に当たった。


「おめでとう。キーホルダーゲットだよ」


熊のように大きな体つきの男性店員がニヤリとしながら朝登くんにキーホルダーを手渡す。

戸塚くんはこれ以上ないくらいのしたり顔を鶴乃さんに向ける。


「朝登くん、ありがと。じゃあ、今度はあたしの大好物をよろしくね」

「よっ!おれに任せとけっ!」


戸塚くんはその後3発外したものの、無事最後の1球でポッキーを射貫くことが出来た。

目的を達成出来て喜び、うっすら瞳に星を湛える戸塚くんも、それを見てりんご飴のように頬をほんのり赤く染める鶴乃さんも心の底から笑っていて、見ていて胸がきゅんっとなった。

最近は良くこんな気持ちになる。

あたしの忘れていた感情を皆が思い出させてくれる。

それだけでも、この夏を皆と一緒に過ごした意味があると思った。