「さては...見惚れてるな」


背後から戸塚くんの声がしてあたしはぬうっと振り返った。


「はい?」

「え?違う?澪夜に見惚れてたんじゃ...」

「断じて違う。あたしにそういう気持ちない」

「でも、おれにはそう見えたんだけどなぁ。ってか、いっつも。凪夏ちゃんさぁ、自分では気づいてないかもだけど、めっちゃ見てるよ、澪夜のこと」

「んなわけない。ってか、見てるとしてもあたしは日葵との2ショットをだ。2人お似合いだなぁとそう思って。あたしにしては珍しく憧れってやつかも」

「え?マジ?それもそれで面白いかも...」


まさか戸塚くんに多少なりともバレていたとは思いもしなかった。

焦って冷や汗が背中をひゅーっと通ったのに気づいてすかさず立ち上がり、水分補給をした。


...はぁ。


そう、だよ。

ちょっとばかりの"憧れ"ってやつなんだよ。

あたしのこの気持ちは...憧れ。

あたしが過去の出来事で失ったものが目の前でキラキラしてるから、どう足掻いたって視界に入ってくる。

2人の関係性があたしの理想の男女であって、とうの昔に期待するのをやめた"愛"たるものなのかもしれないから。

色んな人が色んな条件で色んな人、生き物、モノに対して持ち、与える"愛"。

ずっと冷めていたあたしが、彼らに出会って少しばかり良いなって思うようになったんだ。

期待してもいいかなって思えるようになったんだ。

そう思わせてくれた、2人への視線は...憧れ。

あたしもこう在りたかった、

これからはこう在りたい。

憧憬の行く先なんだ。

それが朝登くんには恋のように見えたのかも。

恋は憧れに良く似ているから...。