いつも以上にテンションアゲアゲの戸塚くんが先頭に立ち、あたし達はついに歩き出す。

戸塚くんのハイテンションに着いていけるのは日葵くらいしかいない。

その日葵の後を弓木くんが追い、下駄に不慣れなあたしと鶴乃さんが彼らの3歩ほど後ろを歩く。

最初は射的よりスーパーボール掬いがいいと駄々をこねる日葵と、恐らく鶴乃さんにカッコいいところを見せたい戸塚くんが、じゃんけんやあっち向いてホイで勝敗を決めようとしている。

あたしがぼんやりとその様子を見ていると、トントンと肩を叩かれた。

鶴乃さんは穏やかな笑みを讃えていた。


「凪夏ちゃんの浴衣とっても綺麗だね」

「いや、どう見ても鶴乃さんの方が綺麗だし似合ってるよ。ほら、あたし鶴乃さんみたいに160センチもないし、ずんぐりむっくりで浴衣なんてさ...似合わないよ。キャラじゃないことして恥かいた。あはは」


いつも通りカラッと笑い飛ばすと、鶴乃さんは眉間に皺を寄せた。


「全然そんなことないよ。凪夏ちゃんはもっと自分に自身持って。黒地に紫の朝顔なんていうシックなデザインを着こなせるなんてなかなかの人だよ!凪夏ちゃんの内に秘めていた魅力がようやく表に出てきたって感じであたしはすっごく良いと思うよ!」

「ありがと。そんなこと言ってくれるの、鶴乃さんだけだよ」

「いやいや、皆思ってても言わないだけだよ。日葵は今はスーパーボール掬いで頭がいっぱいだから話題にしないだけで、それが終わったら"な~ちゃん浴衣似合ってる~"って言って抱きついてくるよ」

「あはは。日葵の真似似てる」

「でしょ?」


似合ってるって言われて嬉しくないことはない。

すごく嬉しい。

けど、素直に笑えないのが、

笑顔が引きつってしまうのが、

辛い。

なぜ?って思う。

もう、あれからずっと...

あたし、笑えてない。

心の底から笑えてないんだ。

ふとした瞬間に過去の出来事が尾を引いていることに気がついて、胸がぎゅうっと締め付けられる。

いつまでも囚われていたくないのに囚われている自分に気付いては失望する。

こんなの、あたしじゃない。

なんで、あたしはこんなにも弱いんだろうって。

もっともっと強くならなきゃ、

もっともっともっとらしくいなきゃ。

そう思うのに出来ない自分が...嫌い。