「どうしたんだよ~澪夜。急に大声なんか出して~」


声に釣られて、彼の親友の戸塚くんがブラシを気だるそうに片手に持ちながらやって来る。

これでもうあたしは完全に用無し。

ちょっと遠くへ行こう。


「とにかく後はよろしく」


あたしはそれだけ言い、誰もまだ手を付けていないであろうトイレの掃除に向かう。

あたしの素っ気ない態度に対してぶつくさ言う日葵を必死に宥める男子達の声が背後から聞こえてくる。

日葵の機嫌は少ししたら直るだろうと睨んでいたけど、案の定、数十秒後には水浴びしながら男子達と楽しそうにはしゃぎ始めた。

日葵は、あたしとは正反対の、喜怒哀楽がはっきりしていて空のようにコロコロと表情を変える愛らしい女子だ。

あたしに話しかけてくれるのも、

たまにちょっかい出してくるのも、

別に嫌な訳じゃない。

けど、ね。

度が過ぎると、キャパオーバーなんだよ。

小休止、したくなる。

4分休符なんかでは全然足りなくて、

12小節くらいは休まないと体力が回復しない。

なんて、訳の分からんことを言ってしまうのも、

2時間目の彼女の素晴らしい歌声の残響とこの酷い直射日光のせいなのかもしれない。