「大丈夫か?」

「あ、まぁ...」


プールサイドをモップでゴシゴシしていた彼はあたしの惨劇を目撃してしまったのだろう。

あたしの頭上に差し出された血管の浮き出た筋肉質な...いかにも男子って感じの腕がぷるぷると震えている。

顔には出てないけど、きっと内心笑ってるんだろう。

いいよ、別に。

君に笑われるのは嫌いじゃない。

あたしはびしょ濡れになった短パンを恨めしく思いながら、その手を取る...

なんてことはなくて、

バシンッとはたいてやった。


「選手交代。今度は君が日葵の相手してあげて」

「は?」


これでも気を回しているつもり。

察してほしい。

あたしは多少声を張ってみた。


「弓木澪夜くん、君だよ、きーみ。風羽日葵のことが大好きな...」

「おいっ!何バカなこと言ってる?!静かにしろ」


その瞬間、周りの視線が一気に彼に注がれた。

それもそのはず。

彼は普段は大きな声を出さないから。

いっつもポーカーで

無口で

優等生ぶってる(本当に優等生なんだけど)

そんな彼の弱味を出逢ってものの数秒で見抜いたあたしは、たまにこうしてからかってる。

結構それが楽しいんだよ。

悪趣味だよね。

性格悪いって自覚してる。

でも...まぁ、いいじゃん。

なんだかんだ、向こうも楽しんでるみたいだし。

じゃなかったら、こういう時手なんか差し出ないよ。

興味なかったら無視だもんね。