目覚ましを鳴らさなくても起きれること。

あたしの自慢しても仕方がない特技。

それを知っているのは、本人と祖母くらい。

あたしはカーテンの隙間から零れる優しい日の光が瞼の裏を明るくするのに気がついて目を覚ました。

それから朝のルーティンをこなしていき、いよいよ今日が最後となる制服に袖を通す。

3年間1日としてこの制服を着なかった日はない。

セーラー服は濡らしたけど、ブレザーは濡らさずに済んだ。

きっと今日も濡らすことはない。

だってあたしは...泣かないから。

泣いたって何も変わらないから。

あたし達が選んでこれから歩んで行く道のりに涙の痕はいらない。

なんて冷めたことを言っていると、入学してから成長していないだなんて、今日ばかりは仕事を休んだ母に言われかねないから、今のところは黙っておく。


「ちょっと、凪夏~。リボン曲がってるじゃない」

「そう言う自分こそコサージュ着け忘れてると思うけど」

「あらやだ、アタシったら!あははっ!」


娘の晴れ姿が嬉しいのか(なんて自分から言う娘も娘だが)母は上機嫌だ。

卒業式前に生徒だけで最終確認があるから、卒業式に出席しない祖母に母が遅刻しないようによろしくと言うと、あたしは家を出た。

団地の公園の遊具の上で月を眺めたあの日を思い出しながらもまだ蕾の桜の木に少しは思いを馳せてみる。

この桜が咲く頃には、あたしはちゃんと短大生になれているだろうか。

桜吹雪が舞う中、歩いていった先にあたしが描く未来はあるだろうか。

出逢いと別れの春に咲く、桜。

別れを選び、想いを乗せたら、また良い出逢いを運んで来てくれるだろうか。

あたしは少しばかり期待してみる。

期待に胸を膨らませられるようになっただけマシだ。

前のあたしなら、期待なんてしたってしょうがないなんて屁理屈言ってたと思うから。

あたしを変えてくれた人達に今日はちゃんと言わないと。

この世で1番美しい言葉を。