「よっ!試食に来させてもらったぜ!」


開口一番にそう言ったのは、胃袋底無し沼男の朝登くんだ。

ちゃっかり鶴乃ちゃんの隣に移動し、"頂きます"と手を合わせると、彼は大口を開け、サンドイッチを口いっぱいに頬張った。


「うほぉっほっほっほ」

「もお、何言ってるのか分かんないよ」


鶴乃ちゃんの言葉にダブルピースで朝登くんが返すと、鶴乃ちゃんはお腹を抱えて笑い出した。

幸せオーラを周りにビンビン波及させる2人を見て、普段穏やかな彼は人格が変わったかのように鋭い眼光で朝登くんを睨み、左の口の端をくいっと上げている。

平和主義者のあたしはここぞとばかりに間を取り持つ。


「皆の王子様がそんな顔しちゃダメだから。ほれ、お茶でも飲んで落ち着きー」

「あんなのを見せられて落ち着けっていう方がおかしい。まったく、調子に乗りすぎだよ...」


と言いつつも食欲に勝るものはないのか、彼は目の前のクッキーを摘まんだ。

その1秒後、サクッという音と共に彼の強ばった表情がみるみる弛緩していった。


「美味しい...。これ、美味しいよ」

「うわぁ、嬉しいです!ありがとう、湧水くん」


料理部で日々腕を磨いている西村さんが王子様の褒め言葉に頬を紅潮させた。

美味しいって言われると素直に嬉しい。

長年雨谷家の料理担当をしているあたしにもその気持ちは分かる。


「うん、こっちのサンドイッチも美味しい。レタスのシャキシャキ感が失われないように具の水分バランスも良く考えられている」

「そりゃどーも」

「これを作ったのは凪夏ちゃん?」


あたしはこくりと頷いた。


「さすが毎日台所に立ってるだけあるね。将来良いお嫁さんになれるよ」

「結婚の予定は1光年先までないんだけど」

「あははっ!そう来たか。ほんと、凪夏ちゃんって人は...はははっ!おもしろい」