あたしはスマホをリュックから取り出すと、ウサコに懐かれた彼の怪訝そうな顔にシャッターを向けた。

カシャッと刹那を切り取った音がして、彼はこっちを睨んできた。


「今俺撮っただろ?」

「自意識過剰。あたしは君の膝に乗ってるウサコを撮ったの」

「いや、今のは確実に俺だ。スマホ貸して。消すから」


彼の手がぬうっと近付いて、あたしはひょいっとスマホをリュックの中に隠した。

背面ファスナーはこういう時に役に立つ。

この機能を思い付いた人に拍手喝采し、これを選んだ自分も良くやったぞと心の中で褒めてあげた。

それと、彼に一言。


「あんまあたしとイチャイチャしない方が良いと思うよ。ほら、浮気だって疑われかねないし」

「はっ?何言って...」

「あたしとここで戯れてる暇があるなら、日葵の勉強プランでも考えてあげなよ。そしてさ、家近いんだし、勉強合宿でもやってさ、一晩過ごしてみたら?あー、なんならそこで...」


そこまで言うと、喉元にほうきの柄の先を向けられた。

あたしは口を噤み、への字に曲げる。


「それ以上言うと、さすがの俺も...」

「怒ってもなんでもいいけどさ、進展がないのはいかがなものかと思う。

実際クリスマスで結ばれてからキスどころか手も繋いでないなんてさ。

それをあたしに相談してくるのが、日葵から話を聞いた鶴乃ちゃんだってのもなんか...なんかさ、腑に落ちないんだよね。

君の相談役としては、心配せざるを得ないんですけど」