「雨谷さん、あなたは間違ってます。ずっとずっとずっと間違ってます」


頭上から言葉が降ってくる。

ポタポタと音がする。


「なぜ今なんですか?そんなに大切に思うなら、もっと早く来れたはず。謝れたはず。今さら友達ぶらないで」

「分かってます。図々しいって、分かってる。けど、やっぱり...やっぱりあたしには絆奈が必要なんです。絆奈の笑顔があたしの推進力で...」

「あなたが必要でも、絆奈には必要ではない。そんなことも分からないんですか?

絆奈はあなたと共に過ごした中では成し遂げられなかったことを成し遂げた。自分の力でここまで来たの。

あなたなんか居なくてもちゃんと1人で立っていられるの。あなたが支えに必要だと言っても、ワタシは渡す気も許す気もない。

...ううん、絆奈の周りの人達全員があなたを許さない。だからもう...関わらないで。絆奈のことを本当に思うなら、絆奈のことを忘れて」


それじゃあ、とそれだけ言って紅野さんは控え室の向こう側に消えて行った。

ドアに耳を押し当てても何も聞こえてこない。

それはこの部屋が防音仕様だからってことだけじゃない。

きっと、離れてしまったからだ。

ううん、ずっと離れていたんだ。

あたしが一方的に想っていただけで、絆奈はあたしのことを忘れていたんだ。

嫌な記憶だもん、忘れるのは当然だ。

忘れたいに決まってる...。

それなのに、あたしは...

あたしは、それでも...

忘れたくなかった。

忘れてほしくなかった。

だって、楽しかったから。

だって、嬉しかったから。

だって、大切だったから。

だって、かけがえのない友達だったから。

だって、親友だったから。

だって...

だって、だって...。


「だって、だって、だって...っ!」


あたしは拳を振り上げた。

ドアを叩こうとして、すんでのところで止まった。

こんなことしたって何も変わらない。

あたしの想いは届かないんだ。

絆奈には...

届かないんだ。


それと、

もう1人。


誰1人として、あたしの想いを受け入れてくれる人はいないんだ。