絆奈の脚本は、同じ人を好きになった親友同士の心の葛藤を等身大にありありと描いた青すぎるものだった。

恋愛マンガ、小説を読み耽っていた絆奈が好んで書きそうな設定の話だった。

けれど、あたしの知っている絆奈が書く物語ではなかった。

ネガティブな主人公に感傷的な描写を好んでいた絆奈が、この作品では徹底的にポジティブを描いていた。

残酷な運命さえも変えよう、変えられる、自分が変えるんだという前向きな主人公。

それを寛大な心で受け止めようとする準ヒロイン。

絆奈は...変わったんだ。

あたしの知らないところで、あたしより前向きに大きく成長していた。

カッコ良い。

絆奈が...カッコ良過ぎる。

尊敬する。

素直に嬉しい。

落ちぶれた自分を蔑んでいる場合ではない。

今すぐ伝えたい。

絆奈に会って、この気持ちを素直に真っ直ぐ届けたい。

あの星の宿った瞳に、この想いを吸い込んでほしい。


あたしは駆け出した。

まだ舞台裏にいるであろう絆奈の元へと、腕をぶんぶん降って、これ以上ないくらい不細工で一生懸命な表情で駆けた。

すると、見えてきた。

萌恵学園高等部演劇部控え室の文字。

この先に絆奈はいる。

いるんだ...。

心臓がずっと飛び跳ねていて、意識は朦朧としている。

それでも確かにここにある大切なものの存在だけは分かる。

今...掴まなきゃ。

今、伝えなきゃ。

今、取り戻さなきゃ。

記憶も、想い出も、関係性も、

今...