いつもの弓木澪夜との会話だ。

お互いに低体温で低トーンなやり取りをこうして週に何度か繰り広げている。

会話というか短文のやり取りみたいな。

それを会話というのかもしれないけれど、なんかそれとは違うような、別の名前を付けられそうな、そんなやり取りだとあたしは感じてる。

数秒の沈黙の後、足元の背の高い草をひゅいっとむしってからあたしは珍しく口を開いた。


「会議の内容、どうせ彼氏とかクラスメートの悪口とかでしょ?」

「まー、な」

「人の悪口言うのって、この世で1番のエネルギーの無駄使いだと思う。そんなのにエネルギー使ってもなんも生まれないのにどうして人ってそういうことにエネルギー注いじゃうんだか。負のエネルギーなんてさ、要らないじゃん。あってもなんの推進力にもなんないじゃん。なのに、さ...。エンドレスで話せるなんて、あたしには分かんない」


あたしがぽっと出の本音を口走り、少しばかり焦っているのに対し、彼は涼しい顔でこう言う。


「それ、分かる。負のエネルギーの熱弁、心のど真ん中を射った。なんて言うか、こう...スパンッと」

「恥ずかしいから言うな。ピョンタの飛び蹴りお見舞いしてあ、げ、る」

「そのローテーションで、そんな恐ろしいこと言われると別の意味でドキドキする」

「それはどうも」

「いや、褒めてねーし。ほんと変わってんな、雨谷は」


ふふ。

かかったな。

あたしはこれから最高のネタをお出まししようと思う。


「いや、君の大好きな日葵よりはマシでしょ」

「おいっ!またその名前をっ...!」


日葵ネタは効果抜群。

やつの弱味だ。

あたしは今日も勝てるぞ。

1本も2本も多く、彼の心臓を射抜いてる。

言葉の弓道は向いているのかもしれない。

自信を持とう。

なんて思って鼻高々になっているあたしを横目に見ながらも、彼は焦って汗をダラダラと流している。


「ってか、いつから知ってるんだよ。その...俺が...」


動揺は隠しきれるものではない。

呂律も態度も何もかも壊滅的だ。

なんの誘導もなしに認めてしまう天然さは、日葵と通じるものがある。

波動を感じるよ。


やはり2人は...


内心ニヤリとしてしまう。

だが、平然としていなくては。

あたしはスイッチをオンした。


「出逢って1秒だよ。気づけない方がどうかしてる」

「なんだよ、それ...」


君の心なんて筒抜けってこと。

あたしは知ってるんだから。

あの日、あの時、あの場所で

感じたことは嘘じゃない。

紛れもない真実だと。