「ふぅ...」


壁にもたれて天井を見上げていると、トンッと肩を叩かれた。


「あ、終わったんだ」

「無事任務完了。で、これから雨谷はどこ行くつもり?」

「あぁ...まぁ、目的もなくぶらぶら」

「見たいものあるんじゃなかったのか?」

「あたし国宝級のバカだから、忘れちゃった。あはは」

「んなわけあるか。ったく、騙しやがって。こんなに急ぐ必要なかったじゃないか」

「ま、いいじゃん。時間はいくらあってもどうせ同じ結果になってただろうし」


あたしは壁から背中を離すと、さっきよりだいぶゆっくりと歩き出した。

そんなあたしを睨みながらも彼は着いてきた。

あたしと弓木澪夜のキョリ。

ずっと変わらない、付かず離れずの17センチ。

定規1枚分より近付くことなんて、きっとこの先在りやしない。

日葵はきっと彼の告白を受けて

両片想いだった2人は晴れて結ばれるんだ。

これ以上ないくらいのハッピーエンド。

きっと絆奈に話したら、身を乗り出し、耳をダンボにして、顔を真っ赤にしながらもわくわく胸を踊らせながら聴くだろう。

そのくらい2人の軌跡は、甘酸っぱくて青い果実のような恋なんだ。

そんな恋を邪魔しようなんて誰が思うだろう。

恐らくこの世界の誰もが思えない。

もちろんあたしだって...思えない。