どのくらいそうしていたのだろうか。

ある時ふと青空を見上げたくなって、リハビリのために首をぐるんと一周回してから
空を仰ごうとしたその時、異変を感じた。

あたしの首はまた一周して、視線の先は泥を被った灰色のローファーだった。


「またここにいたのか」

「悪い?」

「別に」


声だけで誰か分かった。

練習はまだ始まらないのだろうか。

でも、あたしが教室を出てもう20分は経ってるはず。

そろそろ皆集まってきてミーティングやら事務連絡やら基礎練習やらする時間じゃないの?

それが集団行動ってことじゃないの?

と、脳内に疑問符が溢れ返ったあたしを見てあたしと同じくらい性悪な彼は、ひょいっと帽子を取った。


「何?」

「別に」

「人の帽子を盗っておいてそれはない。あたしの帽子に興味あるの?ちなみにそれは命より大事なものだからあげられない。返してもらわないと困る。...死ぬ」

「なら返す。殺したなんて言われたくないし」


潔く返すとは、やはりこの人は真面目だ。

2年1組学級副委員長なだけはある。

あと、弓道部部長、か。

感心していると、あたしの腕に陰が出来た。

思いがけない日陰に内心喜びながらも、体温は2、3度上がった気さえする。

やがて彼が口を開く。


「いつもの暇潰しで草むしり?」

「ん。キミも暇潰しに放浪?」

「暇潰しってわけじゃない。道場に早めに来たのに女子達が占領してるから自主練出来なくて困ってて、それで...」

「女子達の井戸端会議は長いから。良くもまぁ下らんことを永遠と話せるものだと感心に値するよ」

「いつにも増してひねくれてるな」

「居場所のない人に言われたくない」

「なんだよ、それ」

「何、それ」