取り残されたあたしは水溜まりのよう。

誰かに踏まれ、いつか蒸発して消えて行くような、そんな存在。

それだけの存在。

悲しいことはあんまり考えたくないから、あたしはネガティブな自分の心の奥底にしまいこんだ。

その代わり、ほんのちょっと楽しくなるかもしれないことを考えてみることにする。


「夏休みか...」


呟いてリュックを背負う。

足を動かす。

扉を開ける。

ガラガラと音がする。

あたしには誰も"また明日"は言わない。

あたしも言わない。

ヘリを踏まないように跨ぐ。

背を向けてまた歩き出す。


昇降口までの廊下と階段を通過する。

夏休みのことを考えてみる。


去年は何してたっけ?

...バイト。

週4日、1日6時間コンビニ、

たまに引っ越しのバイト。

休みの日は勉強と家事。

日葵や鶴乃さんと出逢い、晴れて友達にはなっていたけど、2人共部活とかその他プライベートも忙しかったらしく、あたしは誘われなかった。

日葵は演劇部の看板女優。

鶴乃さんは女子弓道部の部長。


「2人共すごいや...。あたしとは...」


生きる世界が違う...。


言葉にすると、またゴーヤの味を思い出すからやめておいた。

ネガは閉じ込めたはずなのにどうしてまた悪さをするのだろう。


「ったく、もう...」


ーーバタンッ!


下駄箱の扉を心の赴くままに閉めたら、とんでもなく大きな音が出た。

自分でも引いてしまうぐらい、

赤リボンの1年生の手からローファーがすり抜け、見事に床に着地させてしまうぐらい、

ヤバい、音、だった。

あたしは罪滅ぼしにと頭をペコペコと2度下げると、ローファーを丁寧に床に置いてから履いた。

そして、バイトまでの暇潰しである、ある場所へと向かった。