「な~ちゃ~んっ!」


前から突進してきたのは、言わずもがな日葵だ。

さっきまであれだけはしゃいでいたのに、こんなに元気なんて驚く以外どんな感情を抱いたらいいかわからない。

ぽかんとするあたしをよそに日葵は話し出す。


「ねぇねぇ、な~ちゃん!今年の夏休みどこ行く~?」

「え?」


テストも終わってないうちから、なぜ夏休みの計画を立てようと思うのだろう。

やっぱり日葵は不思議な子だ。

なんか...ずれてるんだ。

それは出逢ったあの日から全く変わってないけど。

芯がびくとも動いてないけど。

羨ましくもあり、鬱陶しくもある。

なんてゴーヤを噛んだ後の顔みたいなのをお見舞いしたというのに、日葵は察することなく続ける。


「来年は受験勉強あるじゃん。だから悠長に遊んでられないなぁって思って。だから、今年の夏休みは皆のやりたいこと全部やろうって思ってさ。で~、な~ちゃんのやりたいこととか行きたいとことか教えてほしいんだよね」

「でもその前に目の前のテスト乗り越えなきゃじゃない?赤点取ったら、夏休み返上で追試になっちゃうと思う」


と、あたしが正論を言うと日葵の顔はみるみる青ざめていった。

血の気が引き、今にも倒れそう。

なんなら、雪女のようだとおばあちゃんから専ら評判のあたしより血色が悪いように思える。

さすがにまずいことしちゃったかと思ったけど、それも束の間。

数秒後には頬を紅潮させてた。


「なら、追試になんないように勉強しなきゃ!部活今日までだし、明日から勉強頑張んなきゃっ!
あっ、でも夏休みのことはちゃんと考えるよ。ほら、楽しいこと考えてないと参っちゃうから。
勉強だって楽しまなきゃソンソンっ!
だから、な~ちゃんも考えておいてね。
あと、勉強分かんないとこ教えて。
よろしくお願い申し上げまする、な~ちゃん様~」


泣きつかれてはこちらが悪いことをしたような気分にならなくもないから、あたしはそっと日葵の頭を撫でてあげた。

日葵はさっきよりもさらに元気とやる気を蓄えたみたいだ。


「な~ちゃんありがと。ではでは、また明日。おっ先~!」


持ち前の俊足を生かし、日葵は通り雨のように去っていった。