「編集長! どういうことですかっ。なんで、僕たち作家を見捨てたりするんですっ」
「そんなことも分からないかね? だから切り捨てられるのだよ。M様こそがわたくしの主。その主のため、全力を尽くすのは当たり前であろう?」
「M……様だと? そんな得体の知れない人がいいとでも言うのかっ! 僕たちがどれだけ、出版社に尽くしてきたとでも……」
「愚かなり、そんな過去など……とうに捨ててやったわ! M様こそがラノベを……いや、この世界を統べるお方なのだよっ。M様を愚弄する愚か者め、この場から消え去るといい」

 魔性の側近となった編集長が、勇者の前に立ちはだかっていた。お互い一歩も譲らず膠着状態であった。

 エクスカリバーを突き立てる勇者こと大物作家。
 それに対し、余裕の笑みを見せる編集長。

 部屋の空気が張り詰める中、彼女のひと言が止まった時を動かす。

「編集長、下がりなさい。あとは私に任せるのです。どうやら、編集長には苦重すぎたようですね。このコンタクトを取った瞬間、アナタは正気を保っていられるのかしら?」
「ま、待ってください。わたくしはまだ戦えます。お願いします、見捨てないでくださいっ」
「見苦しいわよ、編集長? アナタは大人しく、書籍化までに全力を注ぎなさい」
「書籍化までって……。その後は、そのあとはわたくしに価値などないとでも言うんですかっ!」
「くどいわね。これ以上しつこいようなら……」

 コンタクトを外し、全力の魔眼を使おうとするM。だが、そんな彼女に悲劇が訪れたのだ。

「あ、あらっ? コンタクト……外れないわ。もぅ、なんで外れないのよっ、おばかっ。あっ、ちょっと待っててくださいね? 今、準備しますので」
「……はっ、こんな勝機を逃すとでも! さぁ、作家たちよ、僕に続きあの痛々しい女を倒そうではないかっ」

 この隙を見逃さず、大物作家はこの部屋から叩き出そうとMの元へ駆け寄っていく。狭い通路を必死な形相で走っていた。その手に持つエクスカリバーをMの胸に突き立てるため……。

 しかし、その目論みは外れてしまう。彼女が傀儡と化した編集者たちが、大物作家たちを阻止したのだ。

 彼ら編集者の目からは生気をまったく感じない。Mによって生ける屍にされ、命令どおりに動いていた。

「やっと……外れましたわ。さて、と。アナタ……かなり売れているらしいわね。その土台をいただくわ。さぁ、我が魔眼よその力を示し、かの者を傀儡にせよ! 秘技、『もう私だけを見なてなさいっ』」
「くっ、いいだろう。たとえ、僕が敗れても第二、第三の勇者が……うわぁぁぁぁ」
「ふふふ、これで売り役の確保ができたわね。アナタのファンは私のモノよ」

 魔眼の前に散ってしまった勇者。彼の意志を継ぐものは現れるのだろうか。このまま悪の限りを尽くす彼女が、勝利を収めてしまうのか。

 多くの作家たちはこの事件をまだ知らない。彼女の存在を認識知るのは、もう少しあとなのだから……。