魔王城へ乗り込む勇者一行。淀んだ空気が事態の深刻さを浮き彫りにしていた。ここは明るいはずの出版社なのだ。それが今や……瘴気漂う悪魔の巣窟に変わり果てていた。

「やはり……何かが起きているようだ。だが、この僕が必ず救ってみせる! たとえ……命と引き換えにしても」
「さすがです。もし、散ってしまったら、その後釜は任せてください。俺が見事にその席を奪い取ってみせますからっ!」
「ちょっと〜、勝手に決めないでほしいんですけどぉ? そこは私が貰うって約束してたんだからっ。というわけで、遺言書にちゃんと書いといてくださいね?」

 敵は……味方にもいた。魔王城に三歩入っただけでこの有様。こんなところで散ってなるものかと、大物作家は心に誓いを立てたのだ。

 五階までは階段を使うことにする。エレベーターでは、閉じ込められる可能性があるからだ。普段から運動不足の彼らとって、それは魔王が仕掛けたトラップに等しかった。

「この階段……何かがおかしいです。昇る度に体が重く……。まさか、これが力を奪う魔の階段というやつなのかっ!」
「そん……な。この現実世界に、ラノベのような罠があるだなんて。信じられない、こんな現実……受け入れられないよっ」

 自分たちの運動不足が原因とは知らず、この非現実的な事態でパニックとなってしまう。次第に彼らの思考は、ネガティブへと堕ちていった。

「はぁ、はぁ。こ、ここが編集部、のはず。何が待ち受けているか分からない。だけど、僕たちは未来を掴むためこのトビラを開けなくてはならないのだっ!」
「ま、待ってください。この体力では……全滅すること間違いなしです! ここは、一度テントで体力を回復させてから……」
「甘い、甘いぞキミたち。真の勇者は不利な状況を覆すモノだ! キミたちのラノベも、そうではないのかい?」

 闇堕ちしかける作家たちに、希望という光をもたらす勇者こと大物作家。作家たちから絶望が完全に消えたのだ。これぞ、大物作家が持つ力である。

「さぁ、このエクスカリバーで、闇に閉ざされた編集部を救おう! みんな……僕に続くんだっ」
「おお〜、この手に希望を! 未来を掴み取るぞっ!」

 勇者の鼓舞により、息を吹き返した作家たち。勇気を振り絞り、重厚なトビラを開けたのである。

「あら、アナタたちは……誰かしら? ここは、私が支配した編集部よ。勝手に入って来られては、困ってしまいますわ」
「M様……彼らは、この編集部から書籍を出している作家どもにございます。ここは、編集長たるわたくしにお任せください」
「そう、分かったわ。でも、早く片付けてよね? 一刻も早く……私の本を書籍化しないといけませんから」
「イエス・ザ・マショウ! 御身に従います」

 かつては仲間であった編集長。彼の言葉が作家たちの精神を一気に削り取る。辛うじて自我を保っているも、もはや虫の息であった。

 しかし、勇者だけは光り輝く瞳で、Mと編集長を睨んでいた。エクスカリバーを強く握り締め、戦闘準備を終えたのだ。