──数日後。
 編集者たちが集うフロアは、教祖Mを崇めるようになっていた。

 担当作家など放置プレイで、みなはMに夢中であった。彼女が座る席は元編集長がいた場所。この部屋の主となり、書籍化への道を歩んでいる。

「もぅ、そんな電話と私、どっちが大事なのぉ? ぷんぷんだよっ」
「申しわけありません。イエス・ザ・マショウ!」
「しっかりしてよねぇ。ここは、私が書籍化するためだけに存在しているのよ? それ以外なんてぇ、価値はないんだからぁ」

 傀儡たちが彼女の書籍化を全力でサポートしていた。たまに作家からの電話が鳴り響くが、担当編集者が冷たく対応する。その時間……わずか数秒。

 たとえ相手の作家が、出版社の要であってもだ。だからこそ、反乱計画が水面下で進められていた。


「なぁ、最近の出版社……おかしくないか? 担当編集が冷たくなったんだよ」
「お前もそうなのか? 実は俺もそうなんだ。まるで、打ち切りしようとしているような……そんな感じがしてるんだ」

 ここは作家たちがよく集う喫茶店。出版社の態度が一変したことで、情報共有するため集まっていた。このままでは、発売日に間に合わないと嘆く作家までいる。

「それな〜。僕もまったく同じ態度を取られるんだよ。映画化の話……全然話せてないんだ」

 出版社で一番の売り上げを出している大物作家。彼ですら、編集長や担当編集からは塩対応なのだ。つい数日前までは、平穏そのものであったのに……。

「やっぱり……何かあったんだろうか。でも、こっちからは電話連絡しか……」
「弱気になってはダメだよ。ここは作家同士手を組んで、出版社へ事情を聞きに行こうじゃないかっ。このままでは、僕たちの未来は闇堕ちしかない」

 不安がる作家に対し、希望を与える大物作家。まさに勇者であった。彼の意見に賛同し、一行は出版社へ殴り込み……ではなく話し合いに向かったのだ。

「ここで……何が怒っているのだろうか。一見、普通のビルだけど、この威圧感……僕が書いている異世界ファンタジーの魔王城そのものだよ」

 リアル勇者に変身した大物作家。エクスカリバーを具現化させ、警戒レベルを引き上げる。西洋の服を黄金の鎧へと変化させた。

 これこそが、大物作家が誇る最強装備なのだ。

「みんな……覚悟はいいかい? この先に何が待ち受けているか分からない。だけど、この手に勝利を掴まなければ、僕たちに未来はないんだっ!」

 人通りが多いこの場所で、作家たちは声を荒らげていた。行き交う人の冷たい視線にも負けず、魔王城(出版社)へ乗り込んだのであった。