センチメンタルにならないよう、深く考えないようにして、廊下を進んだ。

 玄関先で靴を履こうとすると朝井様が「ちょっといいかな」と言う。

 その声に真っ先に反応したのは美人インテリアコーディネーターの彼女。花が咲いたような鮮やかな笑みを浮かべて朝井様を振り返った。

 心の中で『よかったですね』と、密かにエールを送る。

 邪魔者は退散だ。私も急いで靴を履こうとすると、朝井様は私の腕を掴んだ。

 えっ?

「では、おふたりともお世話になりました」

 朝井様が礼を言う相手は私以外のふたり。『ちょっといいかな』は、私に言ったらしい。

 キュッと唇を噛んだインテリアコーディネーターの彼女は、クルっと背中を向け大股で外へ出る。

 後を追うように不動産屋さんも慌てて頭を下げ「失礼します」と、出ていった。

 

「えっと……」

 まだなにかあるのですか。

「コーヒーを飲んでいかないか?」

 ん? もしかして新しいコーヒーメーカーの使い方が知りたいのかしら。