「ええ。言われた通り」

 時々思うのだ。朝井様はもしかしたら、レセプショニストとして仕事がまともにできない私のためにいろいろ頼んでくれているのだろうかと。

 今朝、滅多に話す機会のない支配人から直接言われた。

『夕月さん、朝井様にとても感謝されたよ。がんばって』

 彼はスイートルームという高級な部屋だけでなく、食事は他所で取らずにルームサービスやレストランなど利用してくれるし、従業員にもこまめに差し入れもしてくれる。

 今日もスタッフルームには朝井様からの差し入れですとメモが添えてある有名店のキャラメルが置いてあった。愛想は悪いが心遣いはちゃんとある人なのだ。

「くれぐれも無理はしないように」

 お医者様のような厳しい口調で朝井様は「焦っちゃいけないよ」と念を押した。

「はい。わかりました。ありがとうございます」



 そして--。

 私の左手のギブスが外れた頃、朝井様の引っ越しが決まった。

 なにしろ長い滞在になったので服のほかにも、本がすごい数になっていた。