彼女が引き受けてくれた理由はおそらく、朝井様がイケメンで心臓外科医で高級ホテルのスイートに連泊し、高級なレジデンスを購入するような〝独身〟だからじゃないですか。

 さすがに思ったままは言えないので、ため息まじりに答えた。

「おっしゃっていたじゃないですか。ちょうど時間に余裕があるって」

 ちらりと目だけを動かして見上げると、朝井様は大きく息を吐いた。

「まあいい。俺はあの女には二度と会わないぞ」

「え、そんな」

「会わなくたって仕事は進められるだろう?」

「それはそうですが」

 肩を落とす私に朝井様は「手首の調子はどうだ?」と言う。

 左手を上げると、彼はそっと私の手を取った。

「指が痺れたりはしていないか?」

 心配そうに指先に触れる。

 こんなときは、いつものクールな彼とは違い、感情の揺れを感じる。

 心から私を心配してくれているようだ。

「はい。大丈夫です」

 安心できるように指を動かしてみせた。

「指先のリハビリはちゃんとやってる?」