「それで、実はね。朝井様――」

 私は声を落として、美江ちゃんに朝井様が実は心臓外科医だと打ち明けた。

 本来私たちは、お客様の個人情報は決して口外してはならない。

 ホテルの中で見たり聞いたりしたことの中には、大声で叫びたくなるようなビックニュースもある。

 スクリーンの中でしか見ないようなスターがお忍びでデート。なんていうのも実際何度か目にしているが、外部には漏らさない。ホテルの信用にかかわるからだ。

 でも、私たちだって聖人君子じゃない。

 そとでは言えない分、スタッフルームの中で思う存分噂し合っている。

「――と言うわけで、すごい先生なのよ。アメリカにいたとか? なんでも向こうでも通用する資格を持っているんだって」

 喫茶コーナーで知り合った人が朝井様のもと患者さんで絶賛してたのだ。

『朝井先生は天才外科医なんだよ』

 美江ちゃんは左右に首を振りながらため息をつく。

「へえー。アメリカ帰りの心臓外科医とはねぇ。よくわからないけど、ものすごいひとだってことは理解したよ」

 それだけじゃない。
 朝井様には別の顔もあった。

「患者さんにはものすごく優しいんだってよ」

「ホテルではクールなのにね。ふーん」

 クールどころか、ドSだけどね。