「稲に沢山の(もみ)が付いて重みで垂れる(さま)は、まさしく豊穣(ほうじょう)の象徴でしょう? ご両親は貴女に「幸せ」という『みのり』が満ちることを祈られた……そういうことです」

「確かにそうなんだけど……」

 不機嫌そうに口をへの字に曲げたワタシは、アナログさんの言葉の断片を書き出した。

 『稲穂』、『豊じょう』、ここでアナログさんがペンを取り、『豊穣』、『稔り』と書き加える。  

「みのりって「実がなる」の『実』じゃないの?」

「それも確かに実りではありますけどね。そちらは果実が熟した時に使う漢字ですよ。稲穂が収穫の時期を迎える時は、こちらの『稔り』」

「ふーん……あ、でも、こっちの方が文字も(おん)も古風でイイかも! ねっ、『アナログ』さん、これからワタシのこと、『ミノリ』って呼んで!」

「ミノリさん、ですか?」

「うんっ、ちょっと気に入ったー」

 『テシガワラ ホタル 改め ミノリ』──そう書き終えて、元気良くペンをテーブルに置く。

 口角を上げて顔を正面に戻し、ニッコリとアナログさんに笑ってみせる。

 けれど、まぁ……この出逢いがまさかあんな不思議な未来のはじまりになるなんて……さすがにこの時のワタシは、全く知る(よし)もなかった──。