「魔王様到着しましたよ」

「僕は呼んでない」

「おや? そうでしたかい。まあまあ俺がお茶を淹れて差し上げますんで、機嫌直してください。じゃパウンドケーキ切ってきますんで待っててくださいよ」

「……わかった」


豪華そうなソファに腰をかけていた男は短く返事をし、それから立ち上がった。


あらためて見ると、すごく整っている顔だ。


“魔王様”――この人が………。



「すまない、律が迷惑かけた。パウンドケーキもありがとう」

「あ! 私パウンドケーキなんて一言も言ってないのに、なんでわかったんでしょう?」


魔王様は「あいつに聞いてくれ」とだけ短く言い、その答えがわかった。


部屋に甘く優しい香りがふわっと舞い込む。トレイに美しくカットされたパウンドケーキと紅茶を乗せて、律さんが戻ってきたからだ。