手ぶらで訪れるわけにもいかないから、手土産にとパウンドケーキも用意した。推し活のために貯めたはずのお金も消え、絶賛金欠中。


めんどくさいから、タクシーで行こうとしたのも一因にある。



なんだかんだバタバタして、8時頃に迎えにきたタクシーに乗り込む。


優しそうな中年のおじさんが「どこまで行きますか」と聞かれ、見せた方がはやいだろうとメッセージカードを渡す。


おじさんは驚いたように言った。


「あの無月(むげつ)様のお屋敷に行くのかい、こりゃ驚いたなあ」

「ほんとですよ……」


なんでこうなったのか、むしろ自分が知りたい。


無月――学園カースト上位に君臨し、そして支配者。あらためて口にされると、余計胃が痛くなる。