「あー、駄目。やっぱ分かんないや。偉大だな、コンタクトって」

 ぱっと手を離され、その視線から解放された。

「どんな感想よ、それ」

 平静を装って、突っ込みを入れてみた。けどもう、目を合わせることが出来ない。心臓はどくんとどころではなく、ばくばくといっている。

 ああ、まずいなぁ。

 自分の心の中の変化に、振り回されている。何でたったこれだけのことで、こんなに私の胸は高まってしまうんだろう。すっごい単純。すっごいお手軽。

「森ー、今度の試合のことなんだけど」
「おう。今行く」

 教室の端から声が聞こえて、ガタンと椅子を音させながら森が立ち上がった。顔の上げられない私は、うつむいている。そのまま彼が去っていくのを待っていたけど、なぜか森は歩き出さない。つむじの辺りに視線を感じ、私はさらにどうしてよいか分からなくなった。

「もしかして、怒った?」
「へ?」

 唐突に聞かれたから、とっさに顔を上げて間抜けな返しをしてしまった。

「嫌がっていたのに、じろじろ見たから。ごめんな」

 そして私の頭をぽんぽんって二回撫でて、森は教室の端へといってしまった。残された私はぼんやりと、今まで彼のいた席を見つめるばかり。

 なんなんだ。なんなんだ。

 森が触れたつむじが、手首が、じんと甘くうずいている。顔なんかもう、鏡を見なくても耳たぶまで真っ赤になっているのが分かるくらい。それなのに、怒った? って、

「……鈍感」

 思わず机に突っ伏した。メガネが当たらないから、気兼ねなく突っ伏せる。そんなどうでも良いこと、頭の片隅でちらっと思った。

 これからどんな顔して、森と接すれば良いんだろう。

 火照る頬に、机の冷たさが心地よかった。