「俺、初めてって初めてなんだ。だからもうちょっと見せてよ」
「なによ、それ」

 意味が分からず聞き返す。初めてが初めてって、訳分かんない。

「今までメガネしていた奴がさ、初めてコンタクトにしてきたのを見るのが初めて。こんな顔していたんだな、小川って」

 まじまじと見つめてそう言うから、だんだんと顔が火照ってきた。

「もういいでしょ、顔見るの、お終いっ」 

 これ以上見られないように、両手を顔の前でかざす。

「駄目。見せてよ」

 その言葉と共に、森が私の手首を掴んで引き寄せた。

「コンタクトしているかって、見て分かるもんなの?」

 子供のように無邪気に聞いて、私の瞳を覗き込む。私の手首は森に掴まれたまま。でも力なんて掛けられていないから、振りほどこうと思えばいつでもできる。そう思うのに、なぜか固まったままの自分がいた。

 いつも人当たりの良い笑顔を浮かべて、誰にでもこだわり無く話しかけて、和み系って言われている、私の前の席に座るクラスメイト。そんな森が口をきゅっと結んで、眉を寄せて、真剣な表情で私の瞳を観察している。森が見ているから視線は動かせないけれど、至近距離だから表情なんていくらでも伺える。今まで意識したこと無かったけれど、その顔が意外に男らしいなって思ったら、急に心臓がどくんってした。

 いや、ちょっと待って。何で突然そうなる、私?

 掴まれたままの手首も、妙に意識してしまっていた。触れられて、初めて男の子の手が骨ばって大きいんだって体感する。自分の手のひらが、じっとりと汗ばんでくるのが分かった。