教室の入口近く、わぁとかひゃあとか気の抜けた声がして、俺は思わず顔を上げた。朝のホームルームが始まる前。集まって雑談したり一人でぼうっとしたり、みんな思い思いに過ごしている。そんなまったりとした空気を、いつものごとく女子の話し声がかき乱していた。
けれど今日はほんの少しだけ、違っていたみたいだ。
「へー。珍しい」
先にそちらを見やっていた江崎がつぶやいた。
「小川さんが主役みたいだな。囲まれている」
「小川が?」
信じられなくて、つい集団を見つめてしまう。地味とは言わないまでも、クラスの中でさして目立たない存在の小川が、確かにその輪の中心にいた。
「珍しい」
もう一度、江崎がつぶやく。俺達はそのままなんとなく話を止めて、女子のかたまりを見つめ続ける。けれど状況も把握しないうちにチャイムは鳴り、それを機会に小川は輪からすり抜けてしまった。目指すのは自分の席、つまりは俺の後ろ。次第に近付くその顔になんとなく違和感を覚え、観察する。そして次に納得した。
「そっか。メガネだ」
「メガネ?」
訳が分からないと言った表情で、江崎が繰り返す。
「メガネしていないんだよ。だからじゃないか?」
江崎は言われてようやく気が付いたようで、ああとつぶやきうなずいた。
「っと、さっきの話。続きは次の休み時間にな」
もう小川への興味は失ったらしい。今まで話していた部活の話題を持ち出すと、自分の席に戻ってゆく。
「またな」
合わせるようにうなずいたけれど、江崎とは反対に自分の意識は小川に移っていた。
何でメガネを外しているんだろう。壊したのかな。でもそれにしては、囲んでいた女子も妙に盛り上がって浮ついていたし。けれど本人に問いかける間もなく先生がやって来て、俺は慌しく前を向いた。
けれど今日はほんの少しだけ、違っていたみたいだ。
「へー。珍しい」
先にそちらを見やっていた江崎がつぶやいた。
「小川さんが主役みたいだな。囲まれている」
「小川が?」
信じられなくて、つい集団を見つめてしまう。地味とは言わないまでも、クラスの中でさして目立たない存在の小川が、確かにその輪の中心にいた。
「珍しい」
もう一度、江崎がつぶやく。俺達はそのままなんとなく話を止めて、女子のかたまりを見つめ続ける。けれど状況も把握しないうちにチャイムは鳴り、それを機会に小川は輪からすり抜けてしまった。目指すのは自分の席、つまりは俺の後ろ。次第に近付くその顔になんとなく違和感を覚え、観察する。そして次に納得した。
「そっか。メガネだ」
「メガネ?」
訳が分からないと言った表情で、江崎が繰り返す。
「メガネしていないんだよ。だからじゃないか?」
江崎は言われてようやく気が付いたようで、ああとつぶやきうなずいた。
「っと、さっきの話。続きは次の休み時間にな」
もう小川への興味は失ったらしい。今まで話していた部活の話題を持ち出すと、自分の席に戻ってゆく。
「またな」
合わせるようにうなずいたけれど、江崎とは反対に自分の意識は小川に移っていた。
何でメガネを外しているんだろう。壊したのかな。でもそれにしては、囲んでいた女子も妙に盛り上がって浮ついていたし。けれど本人に問いかける間もなく先生がやって来て、俺は慌しく前を向いた。