胸の前で拳を握る。


 暴れてる心臓を閉じ込めたくて。


「……これも、ものじゃないからだめ、かな」


 甘えるみたいに上目遣いで、一悟くんがこてんと首を傾けた。


 う、可愛い……。


 一悟くんが望むなら、あげられるもの全部あげたいけど。


 今だけは、あげるんじゃなくてわたしがほしくなっちゃってる。


「わたしは毎日したいから、だめ……」

「っえ……」

「一悟くんも、そうでしょ?」


 一悟くんの喉仏が上下した。


 きっと、良い返事が返ってくるはず。


 むしろそれしかあり得ないって確信を持って、期待の眼差しを向けていると……。


「いや、それはちょっと……」


 一悟くんは、さっとわたしから目線をそらした。


 あれぇ、おかしいなぁ?


 絶対に甘い空気が始まる前触れだったよね?


 体の熱があっという間に霧散していく。


 がっかり。そうだよね、全部が同じ気持ちなわけないよねぇ……。


 しゅんと肩を落とす。一悟くんが慌てて口を開いた。


「めっ、めるは、俺のこと甘やかしすぎなんだって」

「甘いのはいけないことなの?」

「ダメ人間になっちゃうから……」

「ふふ、なっちゃえ」

「もう……」


 あ、困らせちゃった。


 残念だけど、このくらいにしておこうかな。


「じゃあ、当日はたくさんイチャイチャできるように準備しておくね?」

「……準備って」

「期待して待っててね~」


 それまで、少しの辛抱。


 何をするのかわかってて待つのもいいかもね。


「だから、期待させちゃダメなんだって……」


 期待したくない一悟くんと、させたいわたし。


 最終的にどっちが勝つか、見物だねぇ。