最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

「あん? なんだいにいちゃんがた! 知らないのかい!? そりゃあ、良いことも何も!! 戦神様が再来したんだよ!! これを祝わずにいられるかってんだ!!」

 男の返事を受け、ザードが割って入る。

「戦神様? 戦神様って、あの、戦神ガウスのことですか?」
「ああ! まぁ、今度の戦神様は、ガウス様と違ってそりゃあ可愛らしい女神様だけどよ!! 町を襲ったでっけぇ魔獣共をぶちのめしてる様子を見たら、ありゃあ俺も、戦神様が再来した! って思ったね!!」

 男の話を聞いているブレイブとザードに向かって、ファイが声をかける。

「おいおい! 見ろよ!! 確かその戦神が使っていたっていう破城槌は、あの広場の中央に刺さってたはずだよな!?」
「お? なんだ、にいちゃん。さては再来祭に参加するつもりだったのか? 残念だったな! 今言った通り、もう新しい戦神様が引っこ抜いちまったよ! 今まで誰も抜いたことの無い破城槌を、こう、すぽーんっとね!!」

 男は嬉しそうに瓶を口に当て、逆さにして喉を潤してから一息付く。
 そしてさらに話を続けた。

「いやぁ、小さな身体の何処にあんな力があるのか。ありゃあ、まさに神が宿ってるな」
「小さいって……その戦神様ってのは、あんたより小さいのか?」

 ブレイブたちが話しかけた男は、男の中では背の低い部類だった。
 見た目から年はかなり上だろうが、総じて背の高い三人たちなら、年頃には既に超えているような身長だ。

「俺より小さいかって? はっはっは。言ってくれるねぇ。まぁ、言いたいことは分かるけどよ。いいかい? 新しい戦神様は、俺なんかよりもずーっと小さい。それこそ幼女みたいにな」
「なんだって!?」

「それに、なんて言うか可愛らしいだぜ? ふわふわの髪とくりくりの大きな目がな。あんな姿みたら、誰も戦神様だなんて思わねぇよ」
「そ、その、戦神様の名前は? 名前はなんて言うんです?」

 ザードが慌てた様子で、男に問いただす。
 しかし男は顔を横に振った。

「それがなぁ。町長にも聞いたんだが、名前は教えてくれなかったそうだ。一言だけ、私を讃えるくらいなら、慈母神マーネスに祈りを捧げてくれってな」

 男は感慨深そうに一人頷く。
 それを聞いていたブレイブたちは、今日何度目か分からないが、互いに目を合わせた。

「おいおい……幼女でふわふわな髪、くりくりの大きな目って」
「それに慈母神マーネスを信仰してるって……」
「ば、馬鹿だなぁ! 二人とも。そんな容姿やマーネス神を信仰している幼女なんていくらでもいるだろ! 気のせいだよ、気のせい!! さ、さぁ! ひとまず討伐はできなかったがけど、報告を済ませて、次の討伐の準備をしよう!!」

 ブレイブたちは三人が三人とも、頭の中で一人の人物、つい最近まで一緒に戦っていたとある女性を思い浮かべていたが、その考えを否定するかのように、急ぎ足で報告へと向かった。
 町の中では、至る所で戦神の再来を祝う声が上がっていた。

第10話
「それでは……討伐は叶わなかったものの、主である魔族はもう居ない、ということですな?」
「はい。もう、西の洞窟からこの町の驚異になる存在はやってこないでしょう」

 私が居る部屋から壁ひとつ隔てて、町長のモーブの声が聞こえてくる。
 相対しているのは、私の元パーティメンバー、ブレイブたちだ。

 私が町長の家で歓待を受けている際に、ブレイブたちが討伐終了の報告をしにやってきた。
 私がいなくてもきちんと仕事をこなすところは、やっぱり勇者と呼ばれるほどはある。

 話に聞く限り、討伐できずに逃げられちゃったり、私が倒した魔獣の群れが間接的にブレイブたちの後始末だったりと、若干問題はあったみたいだ。
 でも! ちゃんと影でブレイブたちの仕事を手伝った私、偉い!!

 そんなことを貰ったカンロアメを口に含めながら、喜んで聞いていた。
 ところで、せっかくブレイブたちと再会できたのに、顔を出さないのは深いわけがある。

 今顔を出したら……多分、教会に連れ戻される。
 いや、多分じゃなくて、絶対かな。

 長い間を共にした――と言ってもまだ一年も経ってないけど――私にはブレイブたちの行動が、手に取るように分かるのだ。

「そんな姿で一人で出歩いたら危ないとか、教会にはきちんと言ってから出てきたのかとか、ぜーったい、お小言よね」

 そもそも今ブレイブたちは、幼女の姿になった私を連れて行けないという判断を既に下している。
 今さら強くなりました! なんて言っても、同行を許可してくれるとは考えにくい。

 だけど、ちょっと気になることがある。
 壁の板の隙間から除き見えるブレイブたちは、疲弊し、さらにたくさんの怪我をしていた。

 私が傍にいれば、すぐにでも治せるのに。
 しかし、さっき言ったように私の存在を知られる訳にはいかない。

「そうだ!!」

 私は良い案を思いつき、壁を何度か叩いた。
 ブレイブたちもその音に反応したが、モーブがそれを制し、席を外すと言ってから、こちらの部屋へ入ってきた。

「どうしました? 戦神様。何か御用でしょうか?」
「ええ。ちょっとこれから、大規模回復魔法を唱えるから、念の為伝えておこうと思ってね」

 私が言ったことの意味が上手く読み取れなかったらしく、モーブはキョトンとした顔で私を見返す。
 居るのよね。きちんと説明しないと理解できない人って。

 私は得意満面の笑顔になって、大規模回復魔法が何なのかを説明してあげることにした。
 えっへん。

「大規模回復魔法っていうのは、いーっぱいの人にちょっとずつ慈母神マーネス様の慈愛の力をあげられちゃう魔法よ!!」

 ドヤ顔を作り、言い放った私に、モーブは少し困った顔をしながら、質問を投げかけてくる。

「えーっと……つまり。戦神様が、広範囲にいる町人たちに、一斉に回復魔法を唱えられる、と、そういう訳ですかな?」
「うん。だから、そう言ったじゃない」

「戦神様は回復魔法もお使いになられるので?」
「あ! そうか。町長さんには言ってなかったけど、私、元々慈母神マーネス様の聖女だから!」

 胸を反らし自慢げに立つ私に、何故かモーブはどんどん困惑の色を強めていっている気がする。
 あ、これは私の言っていることを信用していない顔だ。

 そういうの、私、すーぐ分かっちゃうんだから。
 今までの何度もこういう表情をする人を見てきたのは、伊達じゃないんだからね。

「いいわ。とにかく! 今から使うから。実際に体験した方が手っ取り早いでしょう? それで。もし、隣のブレ……じゃなかった。勇者一行に何か聞かれたら、町の人のために私が使ったって説明してね。いい? ブ……じゃない! 勇者の為じゃなくて、町の人のためにだからね!」
「は、はぁ……左様で……」

 とりあえず、これで私がブレイブたちのために回復魔法を使うってことはバレないだろう。
 モーブにもブレイブたちと私が知り合いだってこともバレずに済んでるはずだ。

 これで心置き無く、ブレイブたちの怪我と疲労を取り除くことができるね!

「それじゃあ、行くわよ!!」

 私はその場で膝を折り、胸の位置で両手を組んで、慈母神マーネス様に祈りを捧げた。
 私の全身が光り輝き、そこを中心として円状に光が広がる。

「おお? なんじゃ、こりゃあ……とても温かい……」

 一番近くにいるモーブの身体を光が通り抜けると、疲れた顔付きだったモーブは気が満ちたような表情に変わる。
 今使った回復魔法は、大きな怪我は治癒できない代わりに、広範囲に治癒と強壮の効果を与える。

 小さな怪我たちどころに癒え、疲れた身体からは気力がみなぎってくるはずだ。

「これは、いいものですな!!」

 すっかり元気になったモーブが満面の笑みを浮かべて私に言う。

「町の人たちみんなにも行き渡ってるはずだから。祭りの疲れも吹っ飛んでるはずよ」
「ほう! 素晴らしい!! 戦神様は、お強いだけでなく、慈愛の力もお持ちだったとは!! 早速、町中の者たちに伝えなくては!! ははは!! 祭りはもっと盛り上がりますぞ!!」

 そう言いながら、モーブは部屋を飛び出してしまった。
 その後ろ姿に私は思わず叫ぶ。

「ちょっと!! ブレイブたちにちゃんと説明してから行ってよね!!」

第11話
 さてと!!
 これでブレイブたちの怪我も無事に綺麗さっぱりなくなったことだし、これからどうしようかな。

 というのも、やはりブレイブたちには私が必要なのは間違いない。
 回復師がいないパーティは万が一の時危険だし、私より優秀な回復師、もとい聖者や聖女なんて簡単には見つからないからね。
 えっへん。

 ということで、ブレイブたちの手助けをするのは変更なし。
 ただし、見つからないようにひっそりこっそり影から助けることにしよう。
 うん。そうしよう。

「ふわぁ……なんだか色々やったからか、眠たくなってきちゃったなぁ……ぐぅ……」