――そう。
三澄くんは、わたしをモデルに描いているというのに、その絵を、一切見せてくれない。

前に覗こうとしたときは、「完成するまで見ちゃだめ」と断られてしまった。


なんでも、ただでさえ緊張しているわたしの意識に影響が出るのが、困るそうで。

わたしはなにも言い返せなかった。


……その意見は、ごもっともだ。

一度でも見てしまえば、三澄くんの目に映る自分を意識して、自然体でいられなくなっちゃうかもしれない。


「けちー」

「なんとでも言ってください。……それから、必要なもの取ったら、はやく出てってください」

「わかった、わかった。俺はそんなに邪魔者か」


三澄くんのセリフに追い出されるように、先生は唇を尖らせながら、せっせと道具を抱える。

廊下へとつながる扉ではなく、美術室へとつながる扉に手をかけて、「じゃねー、上村さん」と手を振りながら出て行った。


ふたりきりになり、準備室は、途端に静かになる。

心は落ち着かないけれど、穏やかで、優しくて、……離れがたい。

そんな、いつもの、不思議な空間のできあがり。