「お疲れー」
いつの間にか、美術準備室に到着していたようで。
結局、先生の名前は確かめられぬまま、のんびりとドアが開かれた。
先にやってきていた三澄くんから、「お疲れさまです」と声が返ってくる。
「三澄、お前、また女の子泣かせたろ。上村さんが絡まれてたよ」
「ちょっ、先生」
それ、言っちゃうんですか。
慌てて制止するも、後から発したわたしの声は、先生の声を追いかけるだけ。
三澄くんの視線が、先生から、わたしへと移動した。
「……大丈夫だった?」
わたしは、少し驚いた。
三澄くんからの問いかけは、はじめて聞くくらいに、感情に揺れていたから。
柔らかで、……けれどどこか、焦りを帯びたような声。
「なんて言われたの」
「……た、大したことないよ? なんでここに通ってるの、って聞かれただけで……」
「……そう」
わたしの答えを聞いた三澄くんは、目を伏せた。