「……さっきの子には、悪いけど。あいつらには、描きたいものを描いて欲しいから」


呟くように落とされた、優しい先生の声。

『あいつら』とはきっと……、美術部のみんなを、指している。


……いい先生だな……。


わたしはじんわりとそう感じて、未だに先生の名前を知らないことを、申し訳なく思った。


……今更、聞いてもいいかな。


美術室に続く廊下を並んで歩きながら、ちょっぴり失礼な質問を投げかけようとしたとき。


「わかってると思うけど、三澄は、……誰でもいいわけじゃ、ないからさ」


持っているバインダーで、口元を隠しながら。

わたしにこっそりとそう告げた先生は、ぱちんっ、と片目を閉じた。


『上村さんを、描きたい』


三澄くんの、まっすぐな声。
耳の奥に残っているその響きに、心が波打つ。


「……はい」


わたしは、小さく返事をした。


三澄くんに事情は聞いているから、理解してたつもりだった。

けれど、改めて先生から言われると、また、照れ臭い気持ちがわたしを支配する。

嬉しさが滲んでしまっていそうな顔を隠すように、わたしは俯いた。