「……ほんとに今日は描かなくてもいいなら、そうしてほしい」
グラウンドに、部員が新しく、何人か現れる。
その内のひとりが綾人だと、歩き方ですぐにわかった。
「今、……たぶん、すごく情けない顔してるから」
わたしの言葉に、三澄くんはなにも言わない。
じっと、聞いてくれていた。
「でも、泣くのはやめる。これ以上見られるの、本当に恥ずかしいし」
おどけたように、そう続けて。
わたしは小さく息を吐き出した。
仲間と楽しそうに笑い合う、好きなひと。
遠くから、こっそりと眺める形の光景は、マネージャーとして、すぐそばで見守るときとはまた違う良さがある。
直前に、はやく好きな気持ちを終わらせたい、と願ったばかりだというのに。
まだ。……もうちょっと。
と。
小さな幸せを感じてしまうこのこころは、矛盾している。
踏ん切りのつかない自分に嫌気がさして、もう一度、今度は大きなため息をついた。
まるで、それが、合図だったかのように。
——突然、視界いっぱいに淡いグリーンが広がり、綾人の姿が見えなくなった。